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疫学者は現代の予言者?

蘇生専門医、感染症学者、疫学者 … 、普段は馴染みのない専門家がテレビ画面に次々と現れることがすっかり日常化した。

その中でも、コロナ禍が始まった当初から注目している人物がいる。しかも女性。私の目分量ではメディアに登場する医療専門家の98%が男性と見受けられる中、彼女の存在は異彩。自己顕示欲は感じられない。今は定年退職した権威ある疫学・生物統計学者だという。スタジオに来ることは滅多になく、TV局に求められれば遠隔で自宅リビングと思しき部屋から登場し、歯に衣着せずに自分のセオリーを放つ。

彼女の名は Catherine Hill(カトリーヌ・イル)。ツイッターなどのソーシャルアカウントなどは持たないおばあちゃん先生だ。

最初に目にしたのは3月か4月。政府が「マスクは要らない!」と吠えていたロックダウン1のさなか。たまたま見ていた情報番組に登場し「なに言ってるの、マスクは皆でつけなきゃダメでしょ!」のようなことをスカッと言った。

憂いなき夏休み気分の残る9月半ば、コロナも下火になったと誰もが信じたがっていた頃、BFMのスタジオに珍しく登場し「ひと月後に強烈な第2波が来る」と手書きの指数関数グラフを使って力説。その後も、状況が進むにつれ、後手後手に回っているコロナ感染の検査方法に異議を唱え続けている。

私には痛快な彼女の発言もTVスタジオの常連たちの癇に障るらしく、よくて「変わった婆さん」扱い。第2波を予告した時などは辛辣なツイートなどで批判をうけている。

彼女の予言はその後現実となったわけだが、おばあちゃん先生のお手製グラフなど誰もが忘れ去ったらしい。マクロンはじめ窮地の政府メンバーたちも口を揃えて「誰も予期せなかった事態」と強調し保身に走っている様子。

この現象に呼応するように追想されるのが、9月下旬に掲載され話題となったルモンド紙の論壇。ノーベル賞フランス人経済学者のEsther Duflo氏が「クリスマスを救うため、12月はクリスマス直前まで全国一斉にロックダウンを!」と訴えた。それも最もな一案だと正直感じたのだったが、この記事に対する読者のコメント、そしてメディア評論家たちの反応は手厳しかった。ふざけたことを.. 医者でもないくせに.. と、こき下ろされ嘲笑された。ひと月後、12月を待たずして国はロックダウンと相なった。

偶然か必然か、この2人が女性であることも手伝って、ギリシャ神話のカサンドラを思い起こさずにはいられない。類まれな予言能力を持ちながら誰からも信じてもらえないよう呪いを掛けられた悲劇の王女。やれやれ、科学者の口から出たものであっても、昔も今も悪いお告げは受け入れられ難いということか。

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