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肌の色の伝え方

昨夜、サッカー欧州チャンピオンズリーグの対戦で、審判による人種差別発言があったとして試合が中断した。場所はパリ。ホームチームのパリ・サンジェルマンの相手はトルコのバシャクシェヒル。開始14分、バシャクシェヒルのコーチで元カメルーン代表の Pierre Achille Webo がルーマニア人の第4審判より黒人を蔑視する「Negro」という言葉で呼ばれたとして一悶着起き、両チームがロッカールームに引き上げる事態へと発展した。

ルーマニア語で「黒」を示す言葉「Negru」を差別用語の「Negro」とWebo氏が捉えたということまでは各報道一致している。差別の有無に関する分析はスポーツ専門家や言語学者に任せよう。
ここではこの出来事をきっかけに、外国人として、また自らも有色人種とカテゴライズされている社会において、改めて肌の色、とりわけ黒人を形容する難しさについて考えさせられた。

生活の中で人物を描く場面というのはしばしば登場するものだ。名前が分かっている状況ならファーストネームもしくはムッシュ/マダム○○○○で問題は無い。基本的に、必要のない時には極力肌の色や性別は付け加えないようにしているが、ちょっとした出会いで人物の形容が目的となる場合、言葉につまった経験は何度かある。

例えば、どの人に書類を渡したかと聞かれ書類は受付の人、メガネを掛けたブロンドの女性に預けましたというような場面だ。通常はこのような描写で済むが、担当者が黒人だった場合、たぶん「黒人の女性」と言えば向こうもすぐにピンとくるのだろうと思うものの、すんなりと言葉が出てこない。かといって30代くらいの黒髪のショートカットの女性に渡しましたと、あえて黒人と言わないのもなぜか白々しく感じられてしまう。白人社会にいるからだろうか、「白人」と明言しないのは気にならない。逆にアジア系の人物であったら自然と「アジア系の女性 une dame asiatique 」と付け加えているだろう。

フランス語では négro や nègre は差別用語である。少なくとも今はそうだ。今年8月、他の国々より数年遅れでアガサ・クリスティーの推理小説「Dix petits nègres」が「Ils étaient dix(10人いた)」に改名されたと話題になった(邦題『そして誰もいなくなった』)。また、童謡の Un jour dans sa cabane も、négro(ちびくろ)の部分がいつの間にか bonhomme やgarçon(坊や)、 cow-boy(カウボーイ)などに入れ替えられている。

一般には、報道でも黒を示す形容詞 noir( une femme / un homme noir(e) )がニュートラルに使われている。3週間前に警察官に袋叩きにされた黒人プロデューサーの件も、フランスのメディアでは「le producteur de musique noir」と記されていた。また、会話では noir よりもBlackを良く聞く。「めちゃ素敵な黒人女性に会ってさー J’ai croisé une Black, hyper classe… 」などと普通に話している。報道では、アメリカの黒人については Afro-américain が好んで使われる。

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それでも…!気心知れた者との会話以外で、black はもとより、さらっと noir とは なぜか 言いづらいのである。数年前にバッグを盗まれた日本人旅行者に付き添い警察署を訪れたとき、犯人像についていきなり C’était un Noir ou un Arabe? 泥棒は黒人それともアラブ人?と決まり文句のように聞かれ、noir を蔑視用語とインプットしてしまったのかもしれない。「アフリカ人 Africain」も、本人が仏人ではなくアフリカの国の国籍を持つと確認できなければ使いにくい。アジア系なら Asiatique で済ませられるのだが…

さて、受付係に渡した書類の件、言葉に詰まっていると向こうから C’était une Antillaise ?(フランス領アンティル諸島出身の女性?)と助け船をだしてきた。救われたOui, oui と返事しながらコレだ!使える!と喜んだ。

それ以降、この言い回しを採用し、似たような場面では un grand monsieur, antillais peut-être…(背の高い男性、アンティル出身かも…)などと言い表すようにしている。また、ハーフかな?と思われる場合には elle a l’air métisse も使っている。どちらも、推量で表現すれば違っていても大丈夫だし、何より話し相手にすぐに伝わる。

ところ変わればセンシティブマターも変わり、その対処法も日々学習中~

童謡 Un jour dans sa cabane
(bonhomme)
童謡 Un jour dans sa cabane
(cow-boy)
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