ワクチンの話題がニュースの大半を占める今日このごろ。
EUは今朝、英アストラゼネカを見放して今後は米独ファイザー/ビオンテックと米ジョンソン&ジョンソンを頼りにワクチン供給を行うと発表。
アストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発したワクチンは、1月29日にヨーロッパ医薬品庁の審査を経て欧州委の許可を受けたばかり。12月承認のファイザー、1月承認のモデルナに続き、これから欧州全土で摂取キャンペーンが繰り広げられるというタイミングだ。
いったい何が起きたのか?
ことの発端は1月22日。アストラゼネカは、予定されていたEUへのワクチン供給量のうち、ごく一部しか提供できないと発表。ベルギー工場の生産が遅れているという。
これに対しEUはすぐさま反応、昨年8月の契約時に取り決められた計4億回分のうち、第1四半期に予定されている8000万回分を約束通り供給するようアストラゼネカに強く申し入れた。
その背景には1月1日にEUを離脱したイギリスとの確執が垣間見える。
英国では欧州に先立ちアストラゼネカのワクチン接種が進んでいて、ジョンソン首相はこれまでのコロナ対策のまずさを挽回しようと英国製ワクチンを自賛。また、ここぞとばかりにブレグジット効果をアピール。
一方、EUは、英国で供給がスムーズなワクチンが欧州で不足するのはおかしいと反撃。当初の契約通りに、イギリスを含めたすべての製造拠点から欧州にワクチンを供給するよう要求。さらには、ベルギー工場から欧州に提供されるはずのワクチンがイギリスに渡っているとの嫌疑をかけて工場の視察を要請し実施した。
これに対しアストラゼネカのソリオCEO(フランス人!)は、イギリスとの個別契約により英国工場が製造した分は英国市場優先で、欧州に供給する分量については「最善を尽くす」としか述べていないと応酬。
契約内容の拘束力をめぐって双方の言い分は対立し、EUは1月29日、契約文面を公表するまでに至った。
さらに同日、欧州で製造されたアストラゼネカ・ワクチンをEU域内に確保するため、欧州委員会は英国へのワクチン輸出規制を決定した。
この輸出規制が更なる火種となる。問題は「北アイルランド議定書 (protocole nord-irlandais)」。EU所属のアイルランドと英国の一部である北アイルランドとの安定した関係を保つため、長年に渡るEUと英国の離脱交渉によりようやく合意に至った重要な取り決め。島内では通商における国境管理はしないという取り決めだ。
EUのワクチン輸出規制適用により北アイルランド議定書が脅かされそうになり、EUとイギリスの間で緊張が高まった。
勢い余った姿勢を是正する形で、EUはアイルランドに関わる輸出制限を即座に撤回。アストラゼネカ側も31日、引き下げた供給量3100万回分に900万回分を足して第1四半期は計4000万回分を提供すると発表(それでも約束の8000万回分には満たないが…)。
ひとまずお互いに矛を収めたが、もともと65歳以上への効果が疑問視されていたアストラゼネカ・ワクチンに執着するほどのこともないと判断したのだろうか、冒頭の「アストラゼネカとは距離をおく」というEU発表に至った。
実際、本日、フランスの保健当局(HAS)はアストラゼネカ・ワクチンを承認したが、65歳以上への摂取は非推奨とした。
世界中どこの国もワクチン確保に躍起になっている中、些細なことでも、公衆衛生問題を通り越して政治・外交問題に発展しかねない有様だ…