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パリ・オペラ座バレエ団、伝統が動くとき

劇場も閉まり、文化的な催しも中止されたままの日々が続くフランス。そんな中、こんなニュースが目に入った。パリ・オペラ座バレエ団がダンサーの多様化に力を入れていく。つまり、これまで見慣れた白人中心のキャスティングをやめて、多様なバックグラウンドを持つダンサーを本格的に揃えていくという。

2月8日、パリ・オペラ座は「多様性に関する報告書 (rapport sur la diversité)」を提出。歴史家のパップ・ンディアイ氏(Pap Ndiaye)と権利擁護事務総長のコンスタンス・リビエール氏(Constance Rivière)が作成したものだ。オペラ座バレエ団のキャスティングレパートリーにおいてダイバーシティ(肌の色の多様性)が反映されるよう根幹的な見直しを提案する内容。

報告書作成の立役者は二人:新年度の昨年9月よりパリ・オペラ座の総監督に就任したアレクサンドル・ネーフ氏(Alexander Neef)とパリ・オペラ座振興会 AROP のイベント・渉外責任者のバンカディ-エマニュエル・イエ氏(Binkady-Emmanuel Hié)。

イエ氏は、昨年5月頃にアメリカで始まったブラック・ライブズ・マター運動をきっかけに自身に宛てられた「黒人なのにオペラ座に居場所をつくろうとしているヤツ」という言葉を思い返し、現状を把握するためにオペラ座の黒人やハーフのアーチスト達の意見を集めて「パリ・オペラ座の人種問題について」と題したマニフェストを発表。結果、オペラ座スタッフ300人がこの文書に賛同。

これを受け、アレクサンダー・ネーフ新総監督は上記パップ・ンディアイ氏とコンスタンス・リビエール氏に具体的な提案を盛り込んだ報告書作成を依頼し、それがこの度発表されたという流れだ。

バレエに限っていえば、主な対策としてオペラ座バレエ学校の生徒選考基準が見直される。実際、オペラ座バレエ団を構成する大半が付属のバレエ学校の出身者であるため、生徒募集の時点で人材の多様化を図ることが重要となる。

報告書はすでに来期からの多様化計画の実施を謳っており、ダンサー募集に関しては今までのように待っているだけでは応募者のプロフィールが偏るため、オペラ座はマイノリティ出身の有能なダンサーをスカウトするため積極的に全国に探しに出向くという。

また、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場 (MET) の例にならい「ダイバーシティ・オフィサー un référent diversité」を任命し、内外の人員で構成される「科学諮問委員会 le comité consultatif scientifique」も設置される予定だ。

すでに、報告書に先駆けて、昨年12月にライブ中継で配信された『ラ・バヤデール』では黒人ダンサーのタイツも肌の色に合うものを揃えたし、これまでの風習のブラックフェイス(肌の黒塗り)も廃止した。

このニュースを聞くと、パリのオペラ座が急に目を覚ましたようにも取れるこのような問題にこれまで無頓着であったのだろうか?それともロンドンやニューヨークの由緒あるバレエ団が次々と「近代化」する中、ひとり「伝統」を守ろうと必死に抵抗していたのだろうか?

この問いに対し、イエ氏はラジオのインタビューで、抵抗というより単にこの問題が真剣に意識されることがなかったからだろうと答えている。また、これまで試みがなかった訳ではない。数年前、当時オペラ座バレエ団の芸術監督であったバンジャマン・ミルピエ氏も改革に挑んだが成功しなかった。その背景にはフランスの伝統がアメリカ化されるという恐怖心があったからではないかとイエ氏は分析している。

伝統が動くとき。それは水面下で小さな変動が少しずつ積み重なり、機が熟すのを待って表面化するとき。

機が熟すといえば、ネットフリックスで配信後しばらくフランスでも1位をキープしていたドラマ『ブリジャートン家』。日本でどれだけ話題になったかは知らないが、黒人英国女王や人種のるつぼの宮廷を背景に展開される物語。

前置きなく観ると相当な違和感に面食らうのだが、逆に、この奇妙さはどこから来るのだろうなぜ変に感じるのだろうと自問を迫られる。そして結局、ああそうか と無意識に自分を捕らえていたステレオタイプの皮が一枚剥がれ、ようやく物語そのものに集中できるようになる。

このドラマの登場パリ・オペラ座の改革も、それぞれは別の取り組みでありながら同時期に表面化するのは偶然ではないはず。あとは、時代の大きな流れに身を任せて、進化した伝統をいち早く楽しめる者の勝ち。

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